「謝らない限り給料を振り込まない」が違法である理由と給与を取り戻す方法

給与トラブル

1 働いた分の給料はもらえる

労働基準法は,給料の支払いにつき,法令に特別の定めがある場合等を除き,「その全額を支払わなければならない」と規定しています(労働基準法第24条1項本文。賃金の全額払いの原則)。

したがって,仮にあなたの側に問題があり,店長の怒りを買ってしまったとしても,「謝らない限りあなたが働いた分の給料を渡さない」ということは,認められないのです。

なお,判例によれば,原則的に,賃金債権に対して不法行為に基づく損害賠償請求権をもって相殺することは許されないとされています(最大判昭和36年5月31日民集15・5・1482日本勧業経済会事件)。

労働者の同意による相殺は不可能ではありませんが,判例(最判平成2年11月26日民集44・8・1085)は「同意が労働者の自由意志に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合」として,例外的な場面に限っています。

したがって,もしあなたの側に問題があり,店長に精神的苦痛を与えた慰謝料が発生するとしても,店長があなたの給料と慰謝料を一方的に相殺することも認められません。

2 強要罪にあたる可能性

刑法223条1項は,「生命,身体,自由,名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し,又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害した者は,3年以下の懲役に処する。」と規定しています。

働いた分の給料については,労働者が賃金債権という形で行使できる財産権です。「給料を振り込まない」ということは,「財産に対し害を加える旨告知」に該当するでしょう。

そして,「義務のないことを行わせ」については,道義的に謝るべきだという程度では足りず,法律上の義務である必要があります。

店長とのトラブルの内容にもよりますが,道徳的には謝罪すべきであったとしても,謝罪する法律上の義務まではありません。

したがって,店長が「謝らない限り給料を振り込まない」といって,執拗に謝罪を求め続けた場合,その行為は強要罪に該当する可能性があります。

3 労働基準監督署に行くべき?

給料トラブルなどの労働問題については,労働基準監督署に行けば良いのでしょうか。

もちろん,労働基準監督署は,労働者を守る機関ですから,労働基準監督署に行って解決するケースも全くないとはいえません。

しかし,労働基準監督署は,労働基準法その他の労働関係法に基づき,会社の法律遵守について調査・監督・指導し,場合によっては警察のように捜査・送検することもできる公的機関です。

強い権限をもった公的機関ですから,労働者の申告のみを根拠に,いきなり動いてくれるということはありません。

明確な法令違反の根拠や証拠を持っていく必要があります。

また,労働基準監督署が会社の法令違反を発見した場合には,会社に対して指導を行い,指導に応じない場合には罰則を与えるべく送検することができます。

しかし,個別の労働者の代理人として,会社に個別の労働者の具体的な未払い給料の支払いを請求してくれるわけではありません。

4 給料を回収するためには

もしトラブルの原因が労働者側にあったとしても,「謝らない限り給料は振り込まない」ということは認められず,働いた分の給料を請求することができます。

しかし,すでにトラブルとなっている店長との間で,労働者本人が支払い交渉をすることは極めて困難ですし,謝罪の強要など,さらなるトラブルに発展しかねないため危険です。

労働基準監督署に相談に行くこともできますが,労働基準監督署の人員にも限りがあり,複数労働者に対する法令違反や重大な法令違反などで手一杯であることが多く,店長と従業員のトラブルは「小さな問題」として後回しにされてしまう可能性があります。

給料にまつわるトラブルについては,弁護士に相談することで,弁護士がご本人の代理人として店長と交渉することができ,迅速・円滑に回収することが可能です。

給料の不払いは生活に直結する大問題です。

お早目に弁護士にご相談ください。